『アイスド・ティーの季節です』 [全体]

 カフェの窓際のテーブルでコーヒーを待ちながら、テーブルに水のグラスとメニュー、そしてその傍らにポップが立っている様子を、ある日の午後、僕は眺めていた。ポップにはアイスド・ティーが美しく涼しげにカラー写真で印刷され、それに覆い被さるかのようにIced tea is here.という、どこからも文句の来ない、完璧な英語のワン・センテンスが、工夫がないと言うならそうも言える書体で、印刷してあった。
 そうか、と僕は思った。思いは感慨のようなものへと、深まった。ついにここまで来たか。あるいは、ここまでは、としておこうか。冷たくした紅茶がグラスに入っていて、そこに氷がいくつかある、というものがごく一般的なものになったのは、1960年代の前半だったか。63年だったとして、そこから半世紀。冷たくて氷の入った紅茶は、じつに五十年もの長きにわたって、日本ではアイス・ティーだった。
 そしてそのアイス・ティーは、アイスド・ティーとなった。英文法の基本のひとつが一般に浸透するまでに、五十年という時間がかかった。2013年は日本におけるアイスド・ティー元年だ。アイス・ティーではなくアイスド・ティーと言うべきだ、という懐かしい論争があったのは、二十年ほど前のことだ。
 二、三年前から、主として『お洒落系』のカフェで、アイス・ティーはアイスド・ティーと表記されるようになった。注文する客がひとり残らずアイスド・ティーと言っているかどうかは別として、アイス・ティーよりもアイスド・ティーのほうが、確実にひと段階は『お洒落』なのだ。




作家 片岡義男
日経新聞『あすへの話題』より抜粋






アイス(!)コーヒーの発展は
夏の高温多湿な日本発信。




アイスド・ティーは渋くて苦手。

コーヒー…でしょ?やっぱり

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